開発が進んだ都市部で高速道路橋を計画する際には、橋脚の位置や基礎の規模が制約されたり、非常に短い期間での建設が要求されたりすることから、軽量な鋼床版の使用頻度が他道路と比べ相対的に高くなっていますが、近年、既設橋においてはさまざまな要因による金属疲労き裂が顕在化しています。新設橋梁においては構造改良によってリスクの低減がはかられていますが、舗装の損傷など付随した懸念も残されています。また、鉄筋コンクリートを用いたRC床版についても、古い基準で設計された薄い床版などにおいて、大型車から繰り返し受ける負荷により、ひび割れ等の損傷が顕在化しています。
そこで、阪神高速道路㈱と鹿島建設㈱は、軽量かつ高耐久なコンクリート系の道路橋床版の開発を目指し、床版の材料に超高強度繊維補強コンクリート(UFC: Ultra High Strength Fiber Reinforced Concrete)を使用した道路橋床版の共同研究を2011年から開始しました。そして、詳細な解析による試設計、および輪荷重走行試験等の実験を行い、優れた疲労耐久性を実現したUFC床版を開発しました。
UFCはセメント、骨材(粒径2.5mm以下)、水、混和剤、鋼繊維(径0.2mm、長さ15~22mm)から作られる「繊維補強セメント複合材(FRCC: Fiber Reinforced Cement Composites)の一種のコンクリート系の新素材です。海外ではUHPFRC(Ultra-High Performance Fiber Reinforced Concrete)と呼ばれています。圧縮強度が150N/mm2以上と従来のコンクリートの4~5程度大きいため、超高強度なUFCの特徴を活かした極めて薄く軽量な床版です。
開発したUFC床版には、ワッフル型と平板型の2種類があります。ワッフル型UFC床版は、2方向にリブがあるワッフル形状の超軽量なUFC床版で、床版の質量は鋼床版とほぼ同等でRC床版の約1/4です。ワッフル形状の最も薄い部分の厚さは40mmです(リブを含む厚さは約120mm)。一方、平板型UFC床版は、平板形状の軽量なUFC床版で、床版の質量はRC床版の約1/2です。平板の厚さは支える桁の間隔によりますが、一般的な橋梁の桁間隔の場合は、厚さ約120mm~150mmです。
超軽量なワッフル型UFC床版
軽量な平板型UFC床版
質量の比較(ワッフル型UFC床版を1.00とした場合の比率)
RC(現場打ちコンクリート)床版の取替え工事への適用を想定し、UFC床版としての試設計、各種基本性能の確認を行いました。旧基準で設計されたRC床版には現行基準よりも薄い厚さ180mmの床版もあります。現行基準によってPC床版等を設計すると240mm程度とする必要があるため、床版が厚くなることによる路面高さの変更や、床版を支える鋼桁、柱、基礎構造に補強が必要となる可能性があります。
しかし、UFC床版は厚さを150mmと従来のRC床版より薄くすることができ、路面高さを変更する必要がなく、重さが増えないことから柱や基礎の補強が不要となります。
床版の取替え工事中は鋼桁のみで床版の重量を支える必要があるため、鋼桁の補強が必要となりますが、従来のRC床版より薄く軽量であるため、鋼桁の補強量を60%に低減することができ鋼桁の補強にかかるコストが縮減されます。
床版の厚さ比較
試製作した平板型UFC床版
UFC床版について、合計20万回の車輪を走行させる輪荷重走行試験を行い、床版に損傷がなく健全であることを確認しました。これは阪神高速道路で実測された車両通行の100年分以上に相当するものです。
また、UFCは組織が非常に緻密であるため、通常の高強度コンクリートの約100倍、塩化物が浸透しにくく、鋼材の位置まで塩化物が浸透するのに約3倍の年数がかかるほど長寿命です(経過年数300年に相当※1)。したがって、構造物を建設および維持管理するのに必要となる費用であるライフサイクルコスト(LCC)の面でも鋼床版やRC床版に比べて極めて優れています。
※1)塩化物イオン拡散係数を0.002cm2/年として部材表面から20mmの位置の塩化物イオン濃度が腐食限界(1.2kg/m3)に達するまでの経過年数を算定。
輪荷重走行試験の状況
担当者からひと言 小坂 崇さん
UFC床版については、社内の検討会での審議や、学会等で技術的内容を発表するとともに、土木学会の技術評価委員会でUFC道路橋床版の安全性および使用性に問題がないと審査して頂き評価証を取得しました。
UFC床版は、新規の橋梁での採用はもちろんですが、老朽化が進み、抜本的な対策が必要な既設道路橋床版の取替えにも適用が可能な床版です。昨今では、全国で道路橋の老朽化が問題となっており、メンテナンスの強化だけでなく、大規模な取替え工事や修繕工事が必要となっています。今後、この研究の成果により、道路橋の長寿命化に寄与できるものと考えています。
なお、UFC床版の研究・開発にあたり「UFCを用いた道路橋床版に関する検討会」において、大阪大学松井名誉教授、長岡技術科学大学長井名誉教授、東京工業大学二羽教授および神戸大学三木准教授にご指導を頂きました。また、土木学会の「UFC道路橋床版に関する技術評価委員会」において二羽委員長、岐阜大学内田教授、三木准教授、中日本高速道路株式会社 青木様、公益財団法人鉄道総合技術研究所 谷村様にご指導を頂きました。
1)土木学会:繊維補強コンクリートの構造利用研究小委員会成果報告書,コンクリート技術シリーズ106,2015.8
2)土木学会:超高強度繊維補強コンクリートの設計・施工指針(案),2004.9
3)土木学会:超高強度繊維補強コンクリート「サクセム」の技術評価報告書,技術推進ライブラリーNo.3,2006.11
4)阪神高速道路㈱・鹿島建設㈱:超高強度繊維補強コンクリート(UFC)を用いた軽量・高耐久な道路橋床版を開発,
報道配布資料,/topics2/1377836669F.pdf,2013.8
5)土木学会:超高強度繊維補強コンクリート(UFC)道路橋床版に関する技術評価報告書,
技術推進ライブラリーNo.17,2015.10
6)小坂 崇・金治英貞・一宮利通・齋藤公生:鋼床版と同等の軽量かつ耐久性の高いUFC道路橋床版の開発,
第22回プレストレストコンクリートの発展に関するシンポジウム,2013.10
7)一宮利通・齋藤公生・小坂 崇・金治英貞:鋼床版と同等の軽量かつ耐久性の高いUFC道路橋床版の輪荷重走行試験,
第22回プレストレストコンクリートの発展に関するシンポジウム,2013.10
8)小坂 崇・金治英貞・一宮利通・齋藤公生:連続合成桁に用いる超高強度繊維補強コンクリート道路橋床版の開発,
第10回複合・合成構造の活用に関するシンポジウム,2013.11
9)一宮利通・金治英貞・小坂 崇・齋藤公生:鋼床版と同等の軽量かつ耐久性の高いUFC道路橋床版の開発,
プレストレストコンクリート,Vol.56,No.1,2014.1
10)一宮利通・金治英貞・小坂 崇・樽谷早智子:薄肉UFCプレテンション部材の構造性能に関する検討,
第23回プレストレストコンクリートの発展に関するシンポジウム,2014.10
11)Takashi KOSAKA・Hidesada KANAJI・Toshimichi ICHINOMIYA・Kimio SAITO: Development of a Highway Bridge Deck Using Ultra High Performance Fiber Reinforced Concrete, IABSE Conference Nara 2015, IABSE, 2015.5
12)一宮利通・樽谷早智子・小坂 崇・金治英貞:UFCを用いたリブ付きプレテンション床版のせん断耐力,
コンクリート工学年次大会2015,2015.7
13)一宮利通・樽谷早智子・金治英貞・小坂 崇:
超高強度繊維補強コンクリートを用いた道路橋床版の安全性に関する実験的研究,
コンクリート工学,Vol.53,No.8,2015.8
14)一宮利通・金治英貞・小坂 崇・樽谷早智子:UFC床版と鋼桁の接合に関する基礎的研究,
第24回プレストレストコンクリートの発展に関するシンポジウム,2015.10
15)小坂 崇・金治英貞・一宮利通・齋藤公生:
超高強度繊維補強コンクリートを用いた道路橋床版の既設橋への適用に関する検討,
第14回コンクリート構造物の補修,補強,アップグレード論文報告集,2014.10
16)小坂 崇・金治英貞・佐藤彰紀・一宮利通・藤代勝:平板型UFC床版の既設RC床版更新への適用性に関する検討,
第15回コンクリート構造物の補修,補強,アップグレード論文報告集,2015.10
17)阪神高速道路㈱・鹿島建設㈱:「超高強度繊維補強コンクリート(UFC)道路橋床版」が土木学会技術評価証を取得
ワッフル型UFC 床版と平板型UFC 床版が対象/道路橋の老朽化対策にも寄与,
報道配布資料,
/topics2/1444017769F.pdf,2015.10